日本のAI市場に関するホワイトペーパー:サービス、AIaaS、医療分野の徹底分析と将来展望

https://g.co/gemini/share/8a0887e7399c

作成: YOSHI.TOMO FURUSAWA | Gloversal, Inc.


Executive Summary

本ホワイトペーパーは、日本の人工知能(AI)市場について、AIサービス全般、AI as a Service(AIaaS)、および医療AIの3つの主要セグメントに焦点を当て、グローバル市場との比較分析を通じて、その構造、成長性、競争環境、そして将来展望を深く掘り下げるものである。

日本のAI市場は、労働力不足や高齢化といった深刻な社会経済的課題を背景に、力強い成長を遂げている。しかし、その成長ペースは世界平均と比較すると緩やかであり、構造的な課題の存在を示唆している。以下の表は、本レポートで分析する主要セグメントにおける日本とグローバル市場の市場規模および年平均成長率(CAGR)の予測をまとめたものである。

市場セグメント

地域

調査機関

2024年市場規模(推定)

予測年

予測市場規模

CAGR

AI全般

日本

IMARC Group

66億ドル

2033年

352億ドル

20.4% (2025-2033)

グローバル

Grand View Research

2,792億ドル

2030年

1兆8,118億ドル

35.9% (2025-2030)

AIaaS

日本

IMARC Group

9.5億ドル

2033年

149.6億ドル

31.7% (2025-2033)

医療AI

日本

ReportOcean

4.8億ドル

2033年

9.8億ドル

19.17% (2025-2033)

グローバル

Fortune Business Insights

290億ドル

2032年

5,042億ドル

44.0% (2025-2032)

このデータから明らかなように、日本のAI市場は各セグメントで高い成長が見込まれるものの、グローバル市場の成長率には及ばない。この「成長格差」の背景には、高度なスキルを持つAI人材の不足、海外のクラウド基盤への依存がもたらす「デジタル赤字」の拡大、そして特に医療分野における慎重な導入文化と厳格な規制プロセスといった、日本特有の課題が存在する 1

一方で、これらの課題は同時に大きな事業機会を生み出している。政府によるAI開発への強力な支援、社会課題解決への強い要請は、特に医療や製造業といった分野で、高度に専門化された高付加価値AIアプリケーションの開発を促進している。また、海外プラットフォームへの依存を脱却し、独自のAI能力を確保しようとする「AI主権」への意識の高まりも、国内プレーヤーにとって追い風となっている。

本レポートは、市場参入を検討する企業に対し、以下の戦略的示唆を提供する。海外企業にとっては、国内の主要なシステムインテグレーターとのパートナーシップが成功の鍵となる。国内企業にとっては、単なる海外技術の導入者から脱却し、日本の言語やビジネス文化に特化した独自のソリューションを開発することが、長期的な競争力確保に不可欠である。特に医療AI分野では、臨床的有効性の証明、薬事承認プロセスの走破、そして持続可能なビジネスモデルの構築が成功の三本柱となる。

結論として、日本のAI市場は、課題と機会が複雑に絡み合うダイナミックな環境にある。これらの課題を克服し、独自の強みを活かすことができれば、日本はAIの「導入国」から世界のAIイノベーションを牽引する「創造国」へと変貌を遂げるポテンシャルを秘めている。


1. 日本のAIサービス市場:比較分析

本セクションでは、日本のAI市場全体をマクロな視点から分析し、より詳細なセグメント分析に入る前の基礎的な文脈と主要な市場動向を明らかにする。

1.1 市場規模と成長軌道:国内予測とグローバルベンチマーク

日本のAI市場は、複数の調査機関によって力強い成長が予測されているが、その規模や成長率は定義する範囲によって異なる。同時に、これらの国内予測をグローバルなベンチマークと比較することで、日本市場の相対的な位置づけと特有の動向が浮き彫りになる。

国内市場予測

日本のAI市場に関する主要な予測は以下の通りである。

グローバル市場ベンチマーク

これに対し、グローバル市場はより急進的な成長が見込まれている。

AI市場予測(日本 vs. グローバル)

調査機関

地域

基準年

基準年市場規模

予測年

予測市場規模

CAGR

IMARC Group

日本

2024年

66億ドル

2033年

352億ドル

20.4%

Spherical Insights

日本

2022年

38.9億ドル

2032年

271.2億ドル

21.43%

Grand View Research

グローバル

2024年

2,792.2億ドル

2030年

1兆8,118億ドル

35.9%

IDC

グローバル

2024年

2,350億ドル

2028年

6,310億ドル超

~29.0%

これらのデータを比較すると、日本市場とグローバル市場の間には、CAGRにして約10から15パーセントポイントの一貫した差が存在することがわかる。この「成長格差」は単なる一時的な現象ではなく、日本が直面する根深い構造的課題の現れである。その要因として、高度なスキルを持つAI専門人材の顕著な不足、海外のクラウドインフラへの強い依存が引き起こす「デジタル赤字」(2024年には約6兆円規模に達し、インバウンド観光収益をほぼ相殺するレベル)の拡大、そして北米などの地域と比較してAIの迅速な導入を阻む可能性のある組織的・文化的な障壁が挙げられる 1。したがって、この成長格差は、日本がAIへの投資から価値を創出し、それを国内経済に還元する能力において、グローバルな競合に対して制約を受けていることを定量的に示している。

1.2 市場アーキテクチャ:生成AIがもたらす変革

近年のAI市場の構造を最も大きく変えた要因は、生成AIの登場である。富士キメラ総研の調査によれば、日本の生成AI関連市場は2023年度から2028年度にかけて12.3倍という驚異的な成長を遂げ、1兆7,394億円規模に達すると予測されている。これは、同年度のAI市場全体の約6割を占める規模であり、生成AIが市場拡大の中核的な牽引役であることを明確に示している 14

この成長は、いくつかの主要なサブセグメントによって構成されている。

1.3 競争環境:国内プレーヤーとグローバルプレーヤーの力学

日本のAIサービス市場は、国内の有力なシステムインテグレーター(SIer)が主導権を握る一方で、基盤となる技術はグローバルなテクノロジー企業が提供するという二重構造が特徴である。

市場シェアのデータを見ると、既存の強固な顧客基盤を持つ国内SIerが優位に立っている。日本電気(NEC)が24.89%という圧倒的なシェアを占め、次いでソフトバンクが12.81%で続く 17。また、企業の導入支援ベンダーとしては、NTTデータや富士通といった国内SIerへの期待が高い 18

しかし、そのサービス提供の根底にある技術を見ると、グローバル企業の存在感が際立つ。国内企業における生成AIサービスの導入シェアは、OpenAIのChatGPTが56.8%でトップを走り、GoogleのGeminiが37%で追う構図となっている 19。これは、国内SIerが顧客との関係性や導入ノウハウで価値を提供する一方、中核となるAIモデルは海外製に依存している現状を示している。

日本のAIサービス市場 - 主要プレーヤーと提供サービス

企業名

市場シェア/特徴

主要なAIサービス/戦略

日本電気 (NEC)

国内サービス市場シェア1位 (24.89%) 17

独自の生成AI基盤や、顔認証・映像解析などの高度な認識AI技術を組み合わせたソリューションを提供。長年のSI事業で培った顧客基盤が強み。

ソフトバンク

国内サービス市場シェア2位 (12.81%) 17

Azure OpenAI Serviceをはじめとする生成AI導入支援パッケージや、AI/DX人材育成サービス「Axross Recipe」など、包括的なAI導入支援を展開 20

NTTグループ

国産LLM「tsuzumi」を開発

軽量で日本語処理能力に優れた独自LLM「tsuzumi」を開発。Microsoft Azure上でMaaSとして提供するなど、海外プラットフォームを活用しつつも、AI主権を意識した戦略を推進 21

富士通

統合AIプラットフォーム「Fujitsu Kozuchi」

生成AIからAutoML、XAI(説明可能AI)まで、幅広いAI技術を統合プラットフォームとして提供。企業の多様なニーズにワンストップで対応 24

PKSHA Technology

アルゴリズム特化型

自然言語処理や画像認識などのアルゴリズムソリューションを開発し、企業の課題解決を支援。特にコンタクトセンター向けAIなどで高い実績を持つ 25

エクサウィザーズ

社会課題解決型AIプラットフォーム

AIプラットフォーム「exaBase」を通じて、介護・医療から金融、製造まで、業界特有の社会課題を解決する多様なAIプロダクトを提供 26

1.4 市場参入分析:機会と障壁

日本のAI市場への参入は、大きな機会と同時に高い障壁が存在する複雑な環境となっている。

参入障壁

機会


2. AI as a Service (AIaaS) セグメント:クラウドが牽引する拡大

本セクションでは、AI市場全体の成長を支える重要な提供形態であるAI as a Service(AIaaS)に焦点を当てる。AIaaSは、特に中小企業にとってAI活用のハードルを劇的に下げ、市場の裾野を広げる役割を担っている。

2.1 市場規模と予測:高成長エンジン

日本のAIaaS市場は、AIサービス市場全体を上回る極めて高い成長率を示すと予測されている。IMARCグループによれば、日本のAIaaS市場は2024年の9億5,260万ドルから、2033年には149億6,490万ドルへと拡大し、その間のCAGRは31.7%に達する見込みである 30。この成長率は、AI市場全体のCAGR(約20%)を10ポイント以上も上回っており、AIaaSが市場拡大の主要なエンジンであることを示している。

このAIaaSの急成長は、AI技術の普及における「偉大な平等化装置」としての役割を反映している。従来、高度なAIシステムの導入は、多額の初期投資と専門人材を必要とするため、大企業に限られていた。しかし、AIaaSはクラウドを通じてスケーラブルなAI機能を従量課金制で提供するため、中小企業でも低コストかつ迅速に最新のAI技術を導入することが可能になる 30。これにより、AI活用の民主化が進み、市場全体のパイが拡大している。

しかし、この利便性は「諸刃の剣」でもある。AIaaS市場を支配しているのは、Amazon Web Services(AWS)、Microsoft Azure、Google Cloud Platform(GCP)といったグローバルなハイパースケーラーである 31。日本企業によるAIaaSの採用が拡大すればするほど、その利用料は海外のプラットフォーマーに流出し、前述の「デジタル赤字」をさらに深刻化させる構造となっている 1。このジレンマは、日本のAI戦略における中心的な課題の一つであり、NTTが自社開発のLLM「tsuzumi」をMicrosoft Azure上で提供するといったハイブリッドなアプローチは、この課題に対応するための一つの戦略的回答と言える 23

2.2 プロバイダーエコシステム:ハイパースケーラーの支配と国内戦略

日本のAIaaS市場のプロバイダーエコシステムは、グローバルなハイパースケーラーがプラットフォームレイヤーを支配し、国内企業がその上で付加価値を提供する、あるいは特定の領域で競争するという構図になっている。

グローバルハイパースケーラー

市場は、包括的なAI/MLサービススタックを提供する「ビッグ3」クラウドプロバイダーによって寡占されている。

国内の競合とパートナー

日本の大手通信事業者やITベンダーは、ハイパースケーラーに対する競合、そしてパートナーという二つの顔を持つ。

2.3 導入トレンドと主要なユースケース

AIaaSの導入は、いくつかの明確なトレンドに沿って進んでいる。


3. 日本の医療AI市場:変革期にあるセクター

本セクションでは、日本のユニークな人口動態と高度な医療インフラがAIイノベーションの肥沃な土壌を形成しているヘルスケア分野に焦点を当て、その詳細な分析を行う。

3.1 市場規模と成長ドライバー:規制と人口動態

日本の医療AI市場は、まだ黎明期にあるものの、急速な成長が見込まれている。ただし、調査対象の範囲によって市場規模の予測には幅がある。

この成長を後押しする主要なドライバーは以下の通りである。

3.2 グローバル市場との比較:成長格差の要因

日本の医療AI市場は高い成長ポテンシャルを持つ一方で、グローバル市場はその数倍の規模と成長スピードを誇る。

日本のCAGR(約20%)とグローバル市場のCAGR(約35-45%)の間には、AI市場全体よりもさらに大きな乖離が見られる。この差は、日本の「慎重な導入」文化を反映している。高度な医療システムを持つにもかかわらず、日本でのAI導入が比較的緩やかなのは、リスクを極度に嫌う厳格な規制環境、歴史的に保守的な医療文化、そして複雑なデータガバナンスの問題が複合的に影響しているためである。診療報酬改定は強力な追い風となったが、AI技術が開発されてから臨床現場で広く普及するまでの道のりは、SaMD(Software as a Medical Device)に対する規制プロセスが比較的迅速な北米などの地域に比べて、長く険しいものとなっている。日本の医療AI市場は、この厳格な検証プロセスという必要な「摩擦」を経ながら、より慎重なスタート地点から着実に成長を加速させている段階にあると言える 40

3.3 主要セグメントの深掘り:診断支援と業務フロー自動化

日本の医療AI市場で最も成熟し、導入が進んでいるのは、診断支援と業務フロー自動化の2つのセグメントである。

3.4 プレーヤーエコシステム:巨大企業と革新者の共存

日本の医療AI市場は、既存の医療機器大手と、臨床現場のニーズを深く理解した革新的なスタートアップが共存・競争するユニークなエコシステムを形成している。

日本の医療AIエコシステム - 主要プレーヤーと焦点領域

企業名

カテゴリー

主要製品/サービスと戦略的焦点

富士フイルム

医療機器大手

内視鏡などのハードウェアにおける圧倒的なシェアを活かし、AI画像診断支援プラットフォーム「REiLI」や内視鏡AI「CAD EYE」などを統合的に提供。ハードとソフトの強力なエコシステムを構築 44

AIメディカルサービス

医師主導型スタートアップ

消化器内科医が創業。内視鏡検査における胃がんなどの見逃しゼロを目指し、画像診断支援AI「gastroAI」を開発。臨床現場の深い知見が強み 43

Ubie株式会社

医師主導型スタートアップ

医師とエンジニアが共同創業。症状検索エンジン「ユビー」と医療機関向け「AI問診ユビー」で、患者の適切な受診行動支援と医療現場の業務効率化を両立。製薬企業向けソリューションも展開 44

エルピクセル株式会社

大学発スタートアップ

東京大学発のライフサイエンス系スタートアップ。脳・胸部・大腸などの医用画像を解析するAI画像診断支援ソフトウェア群「EIRL」を開発。幅広い疾患領域をカバー 48

アイリス株式会社 (Aillis)

医師主導型スタートアップ

医師が創業し、スタートアップワールドカップで優勝。インフルエンザ診断支援AI医療機器など、新しい診断モダリティの開発に注力 52

エムスリー株式会社

医療情報プラットフォーム

30万人以上の医師が登録するプラットフォーム「m3.com」を基盤に、医療AI開発企業を支援する「M3 AI Platform」を展開。開発から実用化までをワンストップでサポート 54

このエコシステムの最大の特徴は、AIメディカルサービスやUbieに代表される、現役の医師が創業したスタートアップの存在である。彼らは臨床現場で直面する具体的な課題(ペインポイント)を深く理解しており、その解決に直結するAIソリューションを開発することで、高い評価と導入実績を上げている。

3.5 成功への戦略的必須事項:ビジネスモデルと規制

日本の医療AI市場で成功を収めるためには、技術開発力だけでなく、規制対応とビジネスモデル構築という2つの戦略的要素が不可欠である。


4. 戦略的提言と将来展望

4.1 市場予測の統合と総合的見解

本レポートで分析した各種予測を統合すると、日本のAI市場は2030年に向けて着実な拡大を続けることが確実視される。特に、生成AIが市場全体の過半を占めるようになり、AIaaSがその導入を加速させ、医療分野が社会実装の重要なショーケースとなるであろう。しかし、グローバル市場との成長格差を埋めるためには、後述する構造的課題への取り組みが不可欠である。成長の鍵は、単なる技術導入に留まらず、日本の産業構造や社会課題に深く根ざした、独自の価値を創造できるかどうかにかかっている。

4.2 市場参加者への戦略的提言

分析結果に基づき、各市場参加者に対して以下の戦略を提言する。

4.3 日本のAI市場の未来:成長へのロードマップ

日本のAI市場がそのポテンシャルを最大限に発揮し、人口動態という最大の課題を克服するための原動力となる未来は、以下の要素にかかっている。

  1. 人材ギャップの解消:国内の教育改革、社会人向けの再教育プログラムの拡充、そして高度専門職に対する積極的な外国人材の受け入れを通じて、AI開発・活用を担う人材プールを抜本的に拡大する必要がある。
  2. 国内クラウドインフラの強化:「デジタル赤字」を是正し、経済安全保障の観点からもAI主権を確保するためには、国内データセンターへの投資や国産クラウドプラットフォームの育成が不可欠である。
  3. 高インパクト領域への継続的支援:特に医療、介護、製造、インフラ管理といった、社会へのインパクトが大きく、日本の強みを活かせる分野において、AI導入を促進するための規制改革や財政的インセンティブを継続的に提供することが重要である。

日本が直面する課題は大きいが、それを乗り越えようとする強い社会的要請こそが、イノベーションの最大の触媒となる。今後10年、日本がAIの単なる「導入国」から、世界の課題を解決するAIを創造する「革新国」へと飛躍できるかどうかの真価が問われることになるだろう。


Appendix: List of Sources

Works cited

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  55. News Release 報道関係各位 Ubie とバイエル薬品、子宮内膜症など婦人科疾患での協業を開始, accessed September 19, 2025, https://www.pharma.bayer.jp/sites/byl_bayer_co_jp/files/news2021-11-24.pdf
  56. ドコモとUbie、資本業務提携契約を締結 | お知らせ - NTTドコモ, accessed September 19, 2025, https://www.docomo.ne.jp/info/news_release/2025/03/27_01.html
  57. スズケン(9987)、「AI問診Ubie」開発のUbieと資本業務提携|M&Aニュース - 日本M&Aセンター, accessed September 19, 2025, https://www.nihon-ma.co.jp/news/20200428_9987-6/
  58. Ubie、最新の資金調達ラウンドにGoogleが参加、両社は医療システムのDX推進で合意 - PR TIMES, accessed September 19, 2025, https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000107.000048083.html
  59. スズケン、AI医療のUbieと資本業務提携で未来へ - M&A HACK - 合同会社SFS, accessed September 19, 2025, https://sfs-inc.jp/ma/15166/